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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)35号 判決 1994年10月20日

大阪市中央区道修町4丁目3番6号

原告

株式会社メディコン

同代表者代表取締役

小林一郎

同訴訟代理人弁護士

大場正成

鈴木修

丸橋亜紀

中田和博

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

門倉武則

吉野日出夫

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が昭和63年審判第12694号事件について平成5年12月13日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年5月9日別紙商標目録記載のとおり「UROBAG」の欧文字と「ウロバッグ」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前)別表第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」として商標登録出願(昭和61年商標登録願第48064号)をしたところ、昭和63年4月22日拒絶査定を受けたので、同年7月11日審判を請求し、昭和63年審判第12694号事件として審理されたが、平成5年12月13日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、平成6年1月24日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願商標の構成、指定商品は、前項記載のとおりである。

(2)  よって按ずるに、本願商標中「URO」の欧文字及び「ウロ」の片仮名文字部分は、医療機械器具を取り扱う業界においては、尿を意味する語として普通に採択使用されているものである。

次に、「バッグ」の片仮名文字は、袋の意味を有し、蓄尿袋の意味合いで「採尿バッグ」あるいは「閉鎖式採尿バッグ」「ハルンバッグ」「ユリバッグ」等と使用されている。

してみれば、本願商標を、その指定商品中採尿バッグあるいは採尿バッグ付き尿量計等蓄尿袋もしくは採尿バッグを使用した医療機械器具について使用する場合には、単に該商品の品質を表示するにすぎず、自他商品の区別標識としての識別機能を有するものとは認められない。

また、上記以外の商品に使用する場合には、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。

したがって、本願商標は、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号の規定に該当し、登録を受けることはできない。

3  審決を取り消すべき事由

審決は、次の理由により違法であり、取り消されるべきである。

(1)  本願商標の商標法3条1項3号該当性

<1> 商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は登録されないという商標法3条1項3号の趣旨は、いわゆる記述的標章(商品の特性を直観させる標章)は、一般的に、商品の取引に際し必要適切な表示であっても、何人もその使用を欲するものであるから、特定人による独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別機能を欠き、商標としての機能を果たし得ないため、登録しないというものである。すなわち、「独占使用が認められたときの不都合(公益的要請)」及び「自他商品識別力欠如」から登録が認められないのである。

他方、同号は、商品の性質等に関連するすべての商標の登録を制限しているわけではない。もともと、商品の性質等に関連する商標は、需要者や取引者によって記憶されやすく、商品の宣伝的効果が大きいので商標としての価値が高いが、その中で商品の特性を暗示する程度のものや、商品の特性を普通に用いられないような方法で表示する商標は、当該商品について一般的に用いられる名称ではないから、独占的使用を認めても何ら弊害はなく、また、暗示的であるとはいっても、商品の品質そのものを記述しているものではない以上自他商品識別機能もあるから、その商標の有する価値に鑑み、登録が認められなければならない。

<2> 審決は、本願商標を恣意的に「URO」という接頭語と「BAG」という語に分け、これが「尿のバッグ」を意味すると判断するが、該判断には、2つの重大な誤りがある。1点は、「URO」すなわち「尿」の意味であると考えていること、2点は、「URO」と「BAG」とを意図的に切り離して扱っていることである。

(a) 「URO」は、尿を意味する語ではない。「UR0」は、他の語と結びついて「泌尿」に関係する語を構成し得る接頭語である。日本の医療関係者の間では、むしろ「Urology」(泌尿器科学)から連想して、「URO」がつく言葉は何となく泌尿器科学に関係する意味合いをもつのではないかと想像されることもあろう。ただし、「URO」単独で「泌尿器」を示すものではないし、まして「尿」そのものを意味するものではない。商標登録第1367065号で「URO」の商標登録が認められるているが、これは単独では意味をなさないため登録されたものであることの証左である。「尿」という言葉をあえて英語で表記すれば、「ユーリン(urine)」となるが、現在使われている蓄尿袋(貯尿袋あるいは採尿バッグともいう。)の取引者、需要者である医療器具卸売販売業者または病院関係者は、「尿」という日本語を使わない場合には、代わりにこの「ユーリン」あるいは独語の「ハルン」を使っている。

(b) 「BAG」には、一般に「かばん」「袋」等という意味があるが、日本では通常「ハンドバッグ」等のように「かばん」の意味で使われることが多い。さらに、下記の登録例から明らかなように、「BAG」がつくからといって直ちに「かばん」「袋」等の意味を有すると捉えるべきではない。

「BIO-BAG」「キーバッグ」

「クリテートバッグ 「プラバッグ

CRYTATEBAG」 PLABAG」

「ジュラバッグ

「カルチャーバッグ」 DURABAG」

「カワスミバッグ

KAWASUMIBAG」

「シーバッグ」等 (以上旧第10類)

「ダーク バッグ

Dark Bag」 (旧々第18類)

(c) 本願商標は、促音を含めて5音からなる短い造語であるから、分離して発音しなければならない事情は全くない。取引実態上も「ウロバッグ」として、不可分一体に結合したものとして扱われ、分離して観察したり、称呼されることはない。また、「URO」という語は、語頭につけられ、それ自体意味をなさない接頭語であって、分離すべきではない。これは、既に商標登録済みである他社商標の「UROGUARD(ウロガード)」が、取引実態上不可分一体の商標として扱われているのと同様である。

(d) 「蓄尿袋」の一般的呼び方としては、他に「採尿袋」等があり、そのうち閉鎖式のものについては、「閉鎖式採尿バッグ」「閉鎖式導尿バッグ」等という呼び方もされている。蓄尿袋を扱っている会社は、原告を含め、上記の一般的名称に加えて製品にそれぞれ独自の商標を付している。

閉鎖式の蓄尿袋を扱っている上位4社(これらの4社で1992年度の全国販売総数の約95%のシェアを占める。)において、どのような取扱いがなされているかをみると、以下のとおりである。

イ. テルモ株式会社(シェア1位)

「ウロガード」の商標名(登録番号第1284571号)に、商品の一般名称が「閉鎖式導尿バッグ」と付記され、英語の表記は「UROGARD closed Urinary Drainage Bag」とされている。

ロ. ニプロ(シェア3位)

「ユローズバッグ2型」の商標名に、商品の符号と一般名称が「UB-2N(閉鎖式導尿バッグ)」と付記され、英語による「Nipuro Sterile disposable urine bag(closed system)」という説明もある。

ハ. 株式会社日本メディカル・サプライ(シェア4位)

商標と一般名称を結合して「JMS採尿システム器具」と表示し、規格として「閉鎖式導尿型」とされている。

ニ. 原告(シェア2位)

「ウロバッッグ」または「UROBAG」の商標名に、一般名称として「閉鎖式採尿バッグ」と付記している。

以上から明らかなとおり、本願商標は、決して商品の品質を表すものとして他社により使われているものではなく、原告のみが「閉鎖式採尿バッグ」という一般名称と併記し、原告の商品を表示するものとして使用しているものなのである。

(e) ちなみに、過去において「URO」「ウロ」という語と他の商品の品質を連想させる語との結合とからなるもので登録された商標は、「UROBAG」「ウロガード」の他にも多数存在する。

<3> 仮に、本願商標を「URO」と「BAG」に分離したとしても、本願商標は泌尿器に関係する語かもしれないという程度の暗示をさせるにすぎないのであって、商品の品質そのものを記述するものでなく、このような暗示的商標(著名な暗示的商標には、「セロテープ」「プラモデル」「ファミコン」等多数の商標が存在する。)は、前記<1>のとおり自他商品の識別力を有し、商標法3条1項3号にいう不登録事由に該当しないから、登録を認めるべきである。

<4> 以上述べたとおり、本願商標は、商品の品質を記述するものではなく、自他商品識別力を有する造語であり、また、他に当該商品の品質の性状を具体的、直接的に表示する一般的な呼び方が存在する以上、原告に本願商標の独占的使用を認め、その価値を享受させても何ら弊害はない。

したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に規定する「商品の品質を普通に用いられる方法でのみ表示する商標」でないとして、登録されるべきである。

(2)  本願商標の商標法4条1項16号該当性

<1> 本願商標には、品質誤認のおそれはない。審決は、本願商標が「尿の袋」を意味するというが、上記のとおり、本願商標は、「尿の袋」を意味しない。

<2> 本願商標の指定商品の需要者が、その商品の構造等に関わりなく、本願商標が付されていれば、これを蓄尿袋と誤認するということはない。指定商品には、写真機械器具、測定機械器具等が含まれるが、たとえば、カメラ、物差し等の需要者が本願商標を見て尿の袋だと考えるはずがない。蓄尿袋その他医療機器の需要者等についてみても、これらの者は、医療関係者として高度に専門化し、商品に日々接しており、決して商標によって医療機器を間違え、品質の誤認をするようなことはない。

<3> 「URO」の商標は、旧第4類「せっけん類、歯磨き、香料類」、旧々第18類「眼鏡用レンズ及び眼鏡」、旧第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」を指定商品とする商標として登録されており、尿に関する商品以外のものも広く指定商品とされている。

また、「採尿バッグ」を指定商品中に含みながら「BAG」あるいは「バッグ」が用いられている各種登録商標も多数存在する。

<4> そもそも商標法4条1項16号は、もっぱら、商品の品質が需要者、取引者に誤認されることを防ぐ目的の公益保護の規定であり、公益的見地以外に不登録にする理由はないのであるから、指定商品の需要者、取引者が現実に誤認するかあるいは誤認するおそれが認められない限り、商標の機能を重視して登録をすべきである。

したがって、本願商標は、商標法4条1項16号に規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」ではないとして、登録されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。審決の認定判断は正当である。

2  取消事由に対する反論

(1)  本願商標の商標法3条1項3号該当性について

<1> 商標が自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであるか否かは、その指定商品との関係において、当該商品の取引の実情を勘案して判断すべきものである。

しかして、本願商標は、その構成中の「URO」「ウロ」の文字部分は、「尿」の意の接頭語であることが医療機械器具業界において知られているばかりでなく、「尿」に関する種々の語を創るものである。さらに、その構成中「BAG」「バッグ」の文字部分は、「袋」の語義を有するものとして一般世人に親しまれており、医療機械器具業界においても「袋状の商品」を表示するための語として普通に使用されているものである。

本願指定商品中の「採尿バッグ」を含む医療機械器具(体温計等の一部商品を除く)は、カメラ、物差し、フィルム等のように、末端の消費者等をも取引の対象とする商品ではなく、その商品の性質上、医療機械器具の製造者、卸業者、病院関係者等のように、もっぱら当該商品を取り扱う専門家に限られ取引されているのが実情である。

かかる取引の実情に鑑みると、本願商標は、その構成中「URO」「ウロ」の文字部分が多少専門的な語であることを考慮しても、前記当業者にとっては、本願商標の構成全体が「尿に関する袋状のもの」の如き意味合いであることを容易に理解させるといわなければならない。

<2> 原告は、被告が本願商標を意図的に切り離して扱ったと主張するが、以下のとおり理由がない。

(a) 原告は、「URO」は、尿を意味する語ではない旨主張する。

しかしながら、本願商標の指定商品中採尿バッグや採尿バッグ付尿量計等の主たる取扱者は、医療機器の製造業者及び被尿器科の医師、看護婦等の医療関係者であり、特に後者は専門分野の知識、情報を有する高度に専門化した者である。

そして、「URO」の文字は、「尿」「排尿」等を意味する接頭語である。英語でいえば、泌尿器科は「UROLOGY」であり、泌尿器関係の医療機械器具は「UROLOGICAL INSTRUMENT」である。

たとえば、円田医科工業株式会社の商品カタログをみると、同社の発売する採尿袋は、その包装箱に同社の出所標識と解される「エミック」の文字よりなる商標と共に「ウロバック」の文字が表示され、その下段には附属品の説明文として「エミックウロバック(一部採尿袋)100枚入1箱」の文字が表示されている。そうすると、この商品カタログに接する取引者、需要者は、「ウロバック」の文字より「採尿袋」の意味を容易に看取し得るものである。

さらに、書籍をみても、「医科器械図録1993」には、膀胱内圧検査、溜尿排尿検査、尿失禁検査等の総称として「ウロダイナミックス」と記され、日本語で「排尿力学検査」等の呼称が用いられ、「ウロ」の文字は「排尿」の意として理解、認識されているし、「図説泌尿器科学講座」には、神経泌尿器科学分野の助教授、医師が「ウロダイナミックス」の日本語訳として「尿流動態」検査の語を使用し、「ウロ」の文字は「尿流」の意として理解、認識されている。

これらの諸事情に鑑みると、本願商標の構成中の「URO」「ウロ」の文字部分は、尿、排尿を指称するものとして当該医療機械器具関係の取引者間で理解、認識されているということができる。

したがって、「UROBAG」及び「ウロバッグ」の文字よりなる本願商標は、その指定商品中の「採尿バッグ」との関係からみれば、該商品が「尿に関する袋状のもの」であることを容易に認識させるものであり、商品の品質を表示するにすぎないものといわなければならない。

原告は、「URO」の既登録例をあげてこれが「尿」を意味するものではない旨主張するが、該商標は、その出願の査定時における取引の実情に照らして、商品の具体的な品質を表示するものとは認められなかったので登録されたのであって、判断の時期と事案を異にする登録例と同一に考えることはできない。

(b) 原告は、「BAG」について、直に「袋」の意を有すると捉えるべきではない旨既登録例をあげて主張するが、前述したとおり、商品の識別性の有無については、その指定商品との関係、取引の実情に照らして考察すべきものである。

本願商標の指定商品中に含まれる「採尿バッグ」を英語で「URINE DRAINAGE BAG」と表示するに際し、「BAG」の文字が「袋、袋状」等の意味を表すための語として使われており、また、その指定商品中の「導尿バッグ」を表示するに際しても「バッグ」の文字が「袋、袋状」の意味を表すための語として使われている。

このような実情に鑑みて本願商標を考察すると、その構成中の「BAG」「バッグ」の文字部分は、該商品が「袋または袋状」のものであることを表すといわなければならない。

(c) 原告は、本願商標の一体不可分性について主張するが、尿の意の接続語である「URO」「ウロ」と、袋の意として親しまれた「BAG」「バッグ」の2語を結合した本願商標をその指定商品に含まれる「採尿バッグ」との関係においてみるとき、取引者、需要者は、本願商標が構成上一体不可分に表示されているとしても、前記意味合いを有する「URO」「ウロ」と「BAG」「バッグ」の2語を本願商標の構成として結合したものであって、「尿に関する袋状の商品」の如き意味合いに理解するというべきである。

(d) 原告は、「ウロバッグ」または「UROBAG」の商標名に、一般名称として「閉鎖式導尿バッグ」と付記している旨主張するが、原告作成のパンフレットには、「バード<R>」「ウロバッグ」「ショートタイプ」「BARD」「UROBAG」等の表示があり、このなかで自他商品識別機能を果たし得る部分は「バード」または「BARD」の文字部分といわなければならず、他の「ウロバッグ」「UROBAG」の文字部分は「尿に関する袋状のもの」、「ショートタイプ」の文字部分は「低ベッド用」の意味合いのものとして表示されているものと解され、商品「採尿バッグ」の品質を表示するにすぎないというべきである。

(e) 原告は、「ウロ」という語が含まれる商標の既登録例をあげるけれども、商標の識別性の有無は、その商標の審決時(または査定時)における取引の実情に照らしてなすべきところ、本願商標は、前述したとおり少なくとも本件審決時において、その識別性を否定せざるを得ないものであるから、20年も以前の登録例等その他の事例とは事案を異にするものである。

<3> 原告は、暗示的商標は、品質表示ではなく、既登録例も存在する旨主張するが、商標の登録適格性の有無は、各商標につき個別的に判断すべき性質のものであって、本願商標がその指定商品との関係からみて識別力を欠く以上、登録要件を具備しないことは明らかであり、原告主張の既登録例の存在もこの判断を覆すに足るものではない。

<4> 以上のとおり、本願商標は、商標法3条1項3号に規定する「商品の品質を普通に用いられる方法でのみ表示する商標」に該当するとした審決の判断に誤りはない。

(2)  本願商標の商標法4条1項16号該当性について

<1> 原告は、本願商標は品質の誤認を生ずるおそれはない旨既登録例をあげて主張するが、商標の登録適格性の有無は、各商標につきその指定商品との関係及び取引の実情に照らして個別的に判断すべき性質のものである。

本願商標は、指定商品「採尿バッグ」の品質を表示するものであり、識別力を具備しないものであるから、少なくとも本願商標の指定商品中の診断、治療に使用する医療機械器具との関係において考えれば、これを「尿に関する袋状の商品」以外の商品について使用した場合には、当該商品が「尿に関する袋状の商品」であるものと誤認させ、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものである。

<2> 以上のとおり、本願商標は、商標法4条1項16号に規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとした審決の判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

2 本願商標の商標法3条1項3号、同法4条1項16号該当性について

(1)  商品の産地、品質等の特性を普通に用いられる方法で記述し表示する、いわゆる記述的標章は、商品取引の際に一般に使用されることの多い商標であって、自他商品識別の機能を欠くことが多く、また、たとえ商品識別標識としての機能を有する場合であっても、何人もその使用を欲するものであるから、特定の人にのみ独占的に使用させることは公益上適当でなく、このことから、商標法3条1項3号に該当する商標は、商標登録が認められないとされているものであることは、原告の主張するとおりである。

そして、商標が自他商品識別機能を有するものであるかは、拒絶査定に対する不服の審判請求に対してなされた審決時を基準時として、その指定商品との関係において、当該商品の取引の実情を勘案して判断すべきである。

(2)  このような観点から、本願商標について、検討する。

本願商標は、「UROBAG」の欧文字と「ウロバッグ」の片仮名文字を上下二段に横書きして構成されていることは、前述のとおりである。

<1>  ところで、乙第1号証(新コンサイス英和辞典)、第2号証(リーダーズ英和辞典)、第3号証(SHOGAKUKAN RANDOM ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY)によれば、「URO」という語は、「尿、排尿、尿道、尿素」等の意味を有し、その語源は、「尿」の意味を持つ「Urine」であることが認められる。そして、同第4号証(医学英和大辞典)によれば、「URO」という語は、「尿または尾の意を表わす接頭語」とされ、日本語で、「Urology」は「泌尿器科学」と、「Urologist」は「泌尿器科専門医」と、「Urography」は「尿路造影術」と、「Uro-1ite」は「尿石」と訳されていることが認められ、同第7号証(図説泌尿器科学講座)によれば、神経泌尿器科学分野の助教授、医師が「ウロダイナミックス」検査の日本語訳として「尿流動態」検査の語を使用していることが認められる。

実際に、医療機器を取り扱う販売者、医師その他医療機関関係者間における「URO」という語の使用形態をみても、乙第6号証(JMI医科器械図録1993)によれば、膀胱内圧検査、溜尿排尿検査、尿失禁検査等の総称として「URODYNAMICS」と記され、日本語で「排尿力学検査」の呼称が用いられ、同第9号証(M.I.C.医科器械綜合標準カタログ)によれば、「泌尿科器械」について「UROLOGICAL INSTRUMENT」と呼称していることが認められ、同第5号証(円田医科工業株式会社発行のカタログ)によれば、同社の販売するオートマティック尿測定装置に「エミックウロゼント」と名称が付され、その付属品の採尿袋に「エミック ウロバック」と商標名が付され、その説明文として「エミックウロバック(一部採尿袋)100枚入1箱」と記載されていることが認められ、同第8号証(テルモ株式会社発行の「テルモ製品案内」)によれば、同社の販売する尿量計と閉鎖式導尿バッグが一体となった精密尿量計に「ウロガード」と商標名が付されていることが認められる。

これらの認定事実からすると、「URO」「ウロ」の語は、本願商標の指定商品の1つである医療機械器具の取引関係者、医療機関従事者間では、「尿」「排尿」「泌尿」その他尿に関係する語もしくは接頭語として理解、認識されているものと認めることができる。

<2>  次に、本願商標中の「BAG」「バッグ」の語は、「袋」の意を有する語として、我が国において認識され、使用されていることは、広く知られた事実であり、前示認定事実からして、医療機械器具業界においても「袋」「袋状のもの」を示す語として使用されていることを認めることができる。

<3>  そうすると、「UROBAG」「ウロバッグ」の文字からなる本願商標は、その指定商品である医療機械器具関係者にとっては、その全体で「尿に関する袋状のもの」といった意味を有すると容易に理解、認識されるものといわなければならない。

<4>  原告は、本願商標を一体不可分のものとして捉えるべき旨主張するが、本願商標は、もともと尿に関係する意味を有する接続語でもある「URO」「ウロ」と、一般的で広く使用されている「BAG」「バッグ」の2語が結合されて構成されたものと認められ、上記認定のとおり、本願商標は、その指定商品である医療機械器具の分野において、取引者、需要者に「尿に関する袋状の商品」の意味を有するものとして理解、認識されるというべきである。

そうすると、本願商標は、指定商品中の上記文字に照応する商品(採尿バッグ、蓄尿バッグ、バッグ付き尿量計等)について使用された場合には、単に商品の品質を表示するにすぎないものであって自他商品の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものというべく、また、このような商標をその他の指定商品に使用した場合には、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。

(3)  原告は、本願商標の商標法3条1項3号該当性に関連し、「蓄尿袋」の一般的呼び方としては、「採尿袋」等があり、そのうち閉鎖式のものは「閉鎖式採尿バッグ」「閉鎖式導尿バッグ」とも呼ばれ、これらの蓄尿袋を扱う会社は原告も含め、上記一般的名称に加え製品にそれぞれ独自の商標を付している旨主張し、甲第3ないし第6号証(テルモ株式会社他発行のパンフレット)にはこの主張に沿う記載の存することが認められるが、前記(2)の認定事実に照らすと、「蓄尿袋」が上記のように呼ばれることがあるとしても、このことは本願商標が医療機械器具の分野において、取引者、需要者に「尿に関する袋状の商品」の意味を有すると理解、認識されるとの認定を左右するものではなく、また、このことによって「ウロバッグ」が商標として自他商品の識別力を取得しているということもできない。

また、原告は、「URO」「ウロ」という語と他の商品の品質を連想させる語との結合とからなるもので過去において登録された商標が多数あるとして例示するけれども、本審決時における「URO」「ウロ」という語の持つ意味、取引の実情、指定商品との関係、組合せた語句との関係等を無視して一般的に比較することはできないといわざるを得ず、これらの既登録例があることをもって、本願商標の識別力についての前示認定判断を覆すことはできない。「バッグ」と他の語の結合した商標の既登録例についても同様である。

さらに、原告は、本願商標は、いわゆる暗示的商標であり、商品の特性を暗示する程度の商標は独占的使用を認めても弊害はなく、自他商品識別機能もあり、登録が認められるべきであるし、現に暗示的性質の商標が多数登録されている旨主張するが、本願商標は、上記のとおり、その指定商品との関係からみて、その品質を表示するものであって識別力を欠くと認められるから、原告の主張を採用することはできない。

(4)  原告は、本願商標の商標法4条1項16号該当性に関連し、本願商標の指定商品には、写真機械器具や測定機械器具が含まれており、その需要者が本願商標を見てこれらの器具を「尿の袋」と誤認するはずがなく、また、医療機械器具についても、高度に専門化したその需要者が本願商標によって医療機械器具の品質を誤認することはない旨主張するが、乙第8号証(テルモ株式会社発行の「テルモ製品案内」)によれば、尿計量用の医療器具には、袋ないし袋状でない形状の精密尿量計があることが認められ、この種医療機械器具については当該商品を「尿に関する袋状の商品」と誤認するおそれがあるというべきであるから、原告の上記主張は採用できない。

(5)  したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に規定する「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」及び同法4条1項16号の規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するというべく、登録をすることはできない。

3 以上により、本願商標は、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し、登録することができないとした審決の認定判断は正当であって審決に原告主張の違法は存しない。

4 よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)

別紙

商標目録

<省略>

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